じかんどろぼう

四十物茶々(あいものちゃちゃ)です。ゆっくりとSSを上げていきます。

2021-01-01から1年間の記事一覧

【100日経っても幸せなヤツ】100日目【完結】

さて、生き物の生活を記録し続けて100日が経った。皆さんはこの生き物の生活をどうおもっただろうか?友人の一人として楽しんでもらえただろうか。 天使は、ゆっくりとペンを置き、ベッドに振り返る。ベッドの上では小さく丸まった猫と生き物が寝息を立てて…

【100日経っても幸せなヤツ】99日目

朝、猫が目を覚ますと見慣れた小屋は姿を消し、大きく立派な家がそこに立っていた。思わず飛び上がった猫に、生き物はやり遂げた達成感を浮かべた顔で近づき、手を伸ばす。その手の毛はぐちゃぐちゃに絡まっており、よく見ると全身毛玉ができていた。随分と…

【100日経っても幸せなヤツ】98日目

今日、生き物は今まで住んでいた小屋を立て直すことを決意した。何故なら、沢山増えた仲間たちが安心して生活できないからだ。生き物は朝早くから起き、材料を調達して回った。途中ドラゴンが手伝ってくれて思ったよりもずいぶん早く作業は終わった。 午後か…

【100日経っても幸せなヤツ】97日目

今日も谷の底はいい天気だ。小川で釣竿を垂らす生き物の横で、天使がおっかなびっくり餌を針に刺している。猫はというと朝からドラゴンと一緒に散歩に出かけて行った。元気な二匹を見送って、今日の夕食を調達しようと小川に来たのだ。わたわたしている天使…

【100日経っても幸せなヤツ】96日目

生き物は、昨日気付いたことを反芻していた。確かに数カ月前まで、生き物には友人がいなかった。生きる意味は、自分を生かすため、少しでも長く生きて子孫を繫栄させる事だった。 感情の意味も分からなかった。 そんな生き物に急激に変化が訪れ、種族の違う…

【100日経っても幸せなヤツ】95日目

片羽になった天使の背中に軟膏を塗りながら、生き物はぷりぷり怒っていた。昨日からずっと怒っている生き物に天使は「ごめんね。ごめんね」と申し訳なさそうに小さくなっている。猫はというともう相手をするのも飽きたのかゴロゴロと転がって、昨日とは打っ…

【100日経っても幸せなヤツ】94日目

今日は何やら朝から不穏な空気が漂っている気がした。谷の底に嫌な風が吹いている。生き物は珍しく威嚇するように喉を鳴らしていた。高い高い谷の上から、何やら光る物が飛んでくる。生き物は半歩後ろに飛び避けると、今まで立っていた場所に金色の矢が刺さ…

【100日経っても幸せなヤツ】93日

昨日の残りのアップルパイを齧りながら、生き物はぼんやりと外を眺めていた。谷の底は、地上よりずっと空気が澄んでいて、美味しい。音も静かで、燃えたり、ずっと雨が降ったり、何かに襲われることもない。幸せだなと家の前の芝生に横になると、生き物の熊…

【100日経ったら幸せなヤツ】92日目

鼻孔一杯に甘い香りが漂ってきて生き物は目を覚ました。ベッドの上で伸びをしている生き物に気付いたのか、膝立ちになった天使が「おはよう」と笑う。手元では、リンゴが煮詰められている。どうやらこの匂いで起きたらしい。「もう少し時間がかかるから寝て…

【100日経っても幸せなヤツ】91日目

生き物の小屋に入った天使は、様々な鉱物や薬草を見て「君は博識なんだね」と感心した様子だ。少し天井が低いらしく、中腰になっているところを見て生き物は天井を上げようか?と画策する。 久しぶりに藁のベットに寝転がる生き物の両側に猫と天使が寝転んだ…

【100日経っても幸せなヤツ】90日目

燃える森のクレバスを降下していくドラゴンの腹側で、天使は「ほぉお」と歓声を上げた。鉱物が太陽の光を反射して輝き、谷全体を明るく染め上げている。虹色の泡が大地の暑さを抑えているらしい。 「こんな所があったのか」 まず初めに天使を小屋の前に下ろ…

【100日経っても幸せなヤツ】89日目

視界の隅で光るものを見つけて首を向けた生き物の前に天使が飛び出した。飛んできた矢を叩き落として「急ごう」とドラゴンの手を握る。天使の両手を握ったドラゴンは、背中に生き物と猫を乗せて高速で飛び始めた。生き物は懐に猫を入れて、弾き飛ばされない…

【100日経っても幸せなヤツ】88日目

四枚の羽根の天使とドラゴンが並んで空を飛んでいる。 天使は「君たちには名前はあるのかい?」と問うた。猫も、ドラゴンも、勿論生き物にも名前はない。名前がないということにも慣れてしまった。 「そうか、でも大丈夫。君たちを見ている人たちが名前を付…

【100日経っても幸せなヤツ】87日目

天使は、人間や魔物がいかに愚かかを生き物に説いた。しかし、生き物の記憶の中には人間がいない。魔物もあの洞窟の化け物しか知らない。首を傾げる生き物に「君は本当にどこから来たんだい」と天使は笑った。天使の色白で細い指が生き物の毛皮をもしゃもし…

【100日経っても幸せなヤツ】86日目

天使の右腕を噛み付き思い切り歯を立てた生き物の頬を、別の天使の腕が殴りつけてくる。生れて始めて他の生物に暴力を振るってしまった。生き物は震えながら腕を解放すると、噛まれた天使は「すまなかった」と謝り、仲間の天使を殴打した。 「こいつは仲間を…

【100日経っても幸せなヤツ】85日目

目が覚めた生き物は自分たちが吊るされている事実に気が付いた。 麻縄でぎちぎちに絞められた体が苦しい。横に首を向けると猫が籠に入れられており、最大限の威嚇をしているのが見えた。「フシャァアアア」と喉の奥から出る叫び声が、辺りに木霊している。首…

【100日経っても幸せなヤツ】84日目

ドラゴンの背に乗り日が暮れて、明けた。休みなく飛び続ける背中を撫でながら生き物は「そろそろ休もうか?」と提案する。ドラゴンは「ギャウ」と声を上げて、ゆっくりと地面に降り立った。小川の近くまで歩き、水を手に取る。生き物は、水の成分を調べた。 …

【100日経っても幸せなヤツ】83日目

夜が明けて、洞窟を出ることにした一行を化け物は洞窟の出口まで見送った。最後の最後まで「天界の者には気を付けろ」と忠告をし、ズッズッと這いずって去っていく背中を見送って、生き物はドラゴンの背中に跨った。 青く澄んだ空が見える。白い雲が綿あめの…

【100日経っても幸せなヤツ】82日目

地面に叩きつけられたドラゴンを介抱しながら、生き物は、化け物にこの世の事の続きを聞いた。天界の住人はこの世の者が想像するより、余程野蛮だと化け物は鼻を鳴らした。 「奴らは私達を化け物だというが、私からしたら奴らの方が化け物だ。奴らを見かけた…

【100日経っても幸せなヤツ】81日目

化け物はその他にも生き物にこの世の事を教えてくれた。燃える地の話、永久の雨の森の話、全てが天界からの干渉によって生じた地形変動だという話。 「奴らはこの世界を生き物の住めない土地にしてから、全てを浄化する気らしい」 しかし、生き物はまだ自分…

【100日経っても幸せなヤツ】80日目

その昔、この世界は人間界の住人と魔界の住人が激しく交戦を繰り広げていた。というのも、増えすぎた人口の移住先として魔界を選んだ人間界の住人が魔界の生物を殲滅し始めたからだった。魔界は全勢力で応援し、やがて巻き返していった。 戦場は魔界から、人…

【100日経っても幸せなヤツ】79日目

結果は散々だった。 だいたい、大きすぎる。強いという次元を超えている。掴んでいた棒切れは一瞬で砂の山に放り投げられていた。「なんなんだこの規格外の体は!」と生き物は自分の腕に絡みつくモルタルをぺしぺしと叩いた。 「もう一度聞く、下等生物、ど…

【100日経っても幸せなヤツ】78日目

化け物を目視した生き物は全速力で風の流れる方へと走り出した。その背後から「待て」と声が聞こえる。このように産み落とされて初めて理解できる言語が聞こえて、思わず生き物は足を止める。その声は背後の化け物から発せられているらしい。 「貴様、どこか…

【100日経っても幸せなヤツ】77日目

目が覚めた生き物の目の前には黒い岩石が転がっていた。辺りを見渡すと先ほどの神秘的な鍾乳洞とは異なりごつごつとした岩が辺りから飛び出していた。 どうやらあの砂場の下は洞窟へと繋がっていたらしい。 砂の力で地面に叩きつけられる衝撃が和らいだよう…

【100日経っても幸せなヤツ】76日目

鍾乳洞を奥へ奥へと進んでいくと、一面砂原の部屋が現れた。さらさらとした砂は掴みどころがなく、生き物の手を水のように滑り落ちていく。随分と乾燥しているようだ。ゆっくりとそこに足を踏み入れる。生き物の肩に乗った猫は「にゃう」と小さく鳴いた。耳…

【100日経っても幸せなヤツ】75日目

永久(とこしえ)の雨の森を抜けて、生き物一行は鍾乳洞に入っていった。白く美しい水が作り出した芸術を撫でていると、目の前から大量の蝙蝠が飛んできて視界を塞ぐ。わたわたと蝙蝠を払いのける生き物の横で「キシャァー!」と猫が一鳴きしたら蝙蝠は向こ…

【100日経っても幸せなヤツ】74日目

化け物を何とか巻いて、生き物一行は湿った森を突き進んでいた。常時雨の降るじっとりとした森は、木々が腐り、外皮がぬめぬめと溶けている。この雨は酸性雨ではないか?と顔をしかめた生き物は持ってきたリュックから、リトマス試験紙を取り出す。雨に濡れ…

【100日経っても幸せなヤツ】73日目

再びドラゴンの背に乗り、地上付近を飛行する。燃え盛る灼熱の森を抜けた後は、見渡す限りの砂漠が視界を覆った。眼の中が、耳の中が砂が入ってゴロゴロする。ぱたんと耳を閉ざして生き物は広がる砂漠に何かいないか目を凝らしていた。視界の隅をごそごそな…

【100日経っても幸せなヤツ】72日目

ゆっくりとドラゴンの背から降り立つと足裏が燃えるように熱く、生き物は顔を歪めた。辺り一面灼熱に包まれた地獄絵図。谷の美しさからは全く想像ができない程、地上は、荒れ果てていた。枯れ木の一本も経っていない。猫はというと、だから言ったのにという…

【100日経っても幸せなヤツ】71日目

その日、生き物は寝不足の目を擦りながら猫に促されてドアを開けた。沢山の荷物を抱えて、リュックをパンパンにした生き物と猫を背に乗せて、ドラゴンはいつもより体が重そうに飛び上がった。まっすぐ上がる能力はないらしく、ゆっくりと斜め上に上昇してい…