じかんどろぼう

四十物茶々(あいものちゃちゃ)です。ゆっくりとSSを上げていきます。

2021-01-01から1年間の記事一覧

【100日経っても幸せなヤツ】70日目

その日、朝から生き物は家の荷物を片付けていた。谷の底から出るという生き物の長年の夢がやっと叶う。呑気に水を舐めている猫をひと撫でして、生き物はリュックに必要なものをボンボン大雑把に詰め込んだ。応急薬、救急セット、寒かった時用のスカーフに、…

【100日経っても幸せなヤツ】69日目

生き物が鼻息荒く説明することを半分も理解しているのかいないのか、猫は眠そうに頷きながら、子ドラゴンの横で丸くなった。随分と大きくなった子ドラゴンを見て生き物は暖かい目で背中を撫でてやる。嬉しそうに笑う子ドラゴンは、生き物の言いたいことを理…

【100日経っても幸せなヤツ】68日目

翼がないならば作ってしまえばいいのだ。この本を書いた人間たちもそれを可能にしていた。自分にもできる筈だ。生き物は木材を切り、翼の形をとらせると、背負えるように加工して、上に布を張った。大きなタコの原理だ。出来上がった大きなタコを使って、走…

【100日経っても幸せなヤツ】67日目

その日生き物は、ここ数日の睡眠不足を取り戻すように惰眠を貪り、目が覚めた時には夕方だった。白夜のようにあまり明るさが分からない谷の底は、今日もキラキラと輝いている。生き物はじっと空を見上げる。細い細いスキマの奥、空を大きな鳥が飛んでいるの…

【100日経っても幸せなヤツ】66日目

泉の畔にバリケードを作った後、生き物は、手持ちの薬の類を全てチェックすることに決めた。運良くドラゴンは救えたが、犬は見殺しにしてしまった罪悪感でここ数日ろくに眠れていない。普段は一日の大半を寝て過ごす生き物にとって、ほぼ徹夜に近いこの状況…

【100日経っても幸せなヤツ】65日目

その日から生き物は例の泉の周りの整備に入った。他の動物が泉に近付かないようにバリケードを張る作業を淡々とこなす生き物を見て、猫は「にゃう」と声をかけた。いつになく真剣な顔で泉を封鎖する生き物を見てドラゴンと一緒に首を傾げた。 この泉の犠牲者…

【100日経っても幸せなヤツ】64日目

今日、生き物は水の調査をしていた。森の生き物たちを癒していると思っていた水は本当に癒しの力があったのか。生き物にとっては、確かに癒しの効果が実証されているが、他は、直接この目で確かめたわけではない。木陰に隠れて、水場に近寄る生き物を一匹一…

【100日経っても幸せなヤツ】63日目

その日生き物は、朝から庭を掃除していた。犬が駆け回って居たため踏み荒らされた畑を直している。瞳を閉じると、犬が元気に庭を駆け回っている。それだけで心がほっと温かくなるのを感じた。ゆっくり腰を落として犬のお墓を掃除していると背中に何かが乗っ…

【100日経っても幸せなヤツ】62日目

今日の生き物は朝から寝床を出ることがなく、日が完全に傾いてしまっていた。眠っているというよりも、拗ねていると言った方が正しい。自分がペットロスになるとは思わなかった生き物は、ぐるぐるぐるぐる胸の中で考えていた。目を閉じると犬の元気な笑顔が…

【100日経っても幸せなヤツ】61日目

今日、生き物は起きるのが遅かった。昼頃に目を覚ました生き物は、隣で冷たく固くなった犬を抱きしめていた。抱き潰してしまったのか?と思ったがそうではない。安らかな顔をして犬は冷たくなっていた。 何故? 生き物の頭が疑問と不安で埋め尽くされる。し…

【100日経っても幸せなヤツ】60日目

前日から酷い状態の犬を半ば無理やり犬小屋から引きずり出して、生き物は自分の寝床の上に犬を置いた。明るい所で見ると犬の顔はすっかりやつれて居るように見える。理由が思いつかず、何をしたらいいのかも分からず、生き物は狼狽えながら水を差しだした。…

【100日経っても幸せなヤツ】59日目

その日は朝から犬の機嫌が悪かった。小屋を出て犬小屋を覗くと小さく丸くなった犬が体を震わせていた。生き物は何とか腕を伸ばして犬小屋の隅っこに丸まる犬の背中を撫でてやる。生き物の大きな体では腕を入れるのが精一杯だ。震える体を不安を覚える。病気…

【100日経っても幸せなヤツ】58日目

生き物と犬の奇妙な生活が始まって暫く経った。 今日も生き物は、犬のふかふかした腹に顔を埋めて呼吸している。所謂、犬吸いである。犬は遊んでもらえるのか?と暫くバタバタしていたが、一向に動かない生き物を見て、したかなさそうに尻尾を下げた。釣られ…

【100日経っても幸せなヤツ】57日目

生き物は茫然と目の前の光景を見ていた。ドラム缶では狭いだろうと思って広めの金型にお湯を入れた所、犬は準備も待たずに嬉しそうに湯に飛び込み泳ぎ始めた。ばちゃばちゃと前足を器用に動かして、前進する犬を見て生き物のに闘志が宿る。犬に泳ぎで負けた…

【100日経っても幸せなヤツ】56日目

今日は生き物と犬は森を探索していた。長い棒で背の高い草をかき分けながら進む生き物を先頭にして列をなして歩くその姿は、ブレーメンの音楽隊のようだ。尻尾を振ってついてくる犬に生き物は楽しそうだなと口角を上げた。程なくして沢山の野イチゴが自生し…

【100日経っても幸せなヤツ】55日目

生き物の生活に突然野犬が混ざってからちょっとの時間が経った。生き物は朝食の残りを野犬に与え、小屋の外に小さな犬小屋を建てた。家族がいるかもしれない。いつ出て行ってもいいと伝えたいが、その方法が分からない。ただ、野犬が幸せそうに生き物の尻尾…

【100日経っても幸せなヤツ】54日目

生き物は胸の圧迫を感じた。うっすら目を開けると昨日の野犬が、胸の上に乗って尻尾を振っている。どこから入り込んできたのかと辺りを見回すと、散らかった部屋が視界に入って溜息をついた。生き物の胸の上で足踏みする野犬を追い払いながら起き上がると、…

【100日経っても幸せなヤツ】53日目

生き物は言葉を操ることができない。鳴き声を上げる事も殆どない。遺憾の意で、ふすーっと鼻を鳴らし、ダムダムと地団駄を踏む時もあるが、基本的に穏やかに生きている。そんな生き物も今日は朝から随分と不機嫌だった。そう、今日は生き物の嫌いなお風呂の…

【100日経っても幸せなヤツ】52日目

生き物は生物にしては珍しく二足歩行だ。足は、体のバランスから考えると随分と大きい。大きな体を支えるためだろうか。ぺたんぺたんと歩く様は陸地を歩くアヒルやペンギンの様でもある。手もふかふかで大きく、しかし、手先が器用でいろいろなものを使うこ…

【100日経っても幸せなヤツ】51日目

生き物は雑食だ。小麦も食べるし、肉も魚も野菜も食べる。木の実、果実も好きだ。今日、生き物はアケビを収穫した。アケビは不思議な甘みがある。生き物はこの果物の果肉が好きだ。口の周りの毛をべたべたに汚しながら食べるのが好きだ。さっぱりとした水色…

【100日経っても幸せなヤツ】50日目

生き物の生活を観測し始めて、50日が経過した。 今日も生き物の生活は変わらない。好きな時間に起きて、文字が読めているのかは分からないが好きな本を読んで、好きなものを食べて、好きなことをする。柔らかい草の上に転がったり、美味しい水を飲んだり、鉱…

【100日経っても幸せなヤツ】49日目

小屋の中には、布の切れ端が沢山積み上がっている。どうやら満足いくドレスが作れなかったらしい生き物は、ぷいと不貞腐れて布団に横になっていた。 人形たちの綺麗なガラスの瞳は、そんな生き物を慈愛の瞳で見詰めている。 人間の世界なら、きっと綺麗なド…

【100日経っても幸せなヤツ】48日目

昨日拾った人形たちを風呂に入れて窓際で乾燥させた。埃の落ちたブロンドヘアは光を受けてキラキラ輝いている。生き物はその細い髪の毛を指先でさらさらと撫でた。指から零れる髪の束が、空気を纏ってゆったりと重力に伴って落ちていく。とても綺麗だ。生き…

【100日経っても幸せなヤツ】47日目

その日、生き物は谷の底のゴミ捨て場に人形を二体見つけた。青いガラス玉が入った綺麗な瞳は谷の底の光を反射して、きらきらと輝く宝石の様だ。中に枯れない花びらが埋め込まれている。二体の人形の埃を払い、綺麗なブロンドの髪を梳かしてやる。人形には詳…

【100日経っても幸せなヤツ】46日目

ガサガサと足元の長い草を蹴り上げながら、生き物はずんずんと谷の底を歩いて行く。長い毛にくっ付き虫を沢山つけながら辿り着いたのは、いつもの湖畔とは違う、もう少し薄暗い沼地だった。沼地に潜む動物たちがじっと生き物を見ているのを感じながら、ゆっ…

【100日経っても幸せなヤツ】45日目

生き物の生活に暦はない。もちろん予定もない。明日何をしようかと考えることはあるが、実行するかどうかは明日の自分次第だ。タスクに追われることのない生き物は自由だ。 人間はたくさんのことに追われている。それは仕事だったり、家庭のことだったり、自…

【100日経っても幸せなヤツ】44日目

一日で部屋を片付けた生き物は、ぐったりとベッドに転がっていた。体が痛い。長時間丸まった態勢をとっていたせいだろう。背中が悲鳴を上げている。無理をし過ぎたなとぼんやり天井を眺めていると、窓から差し込む光が天井を彩っていることに気づいた。七色…

【100日経っても幸せなヤツ】43日目

猫と子ドラゴンの疑似親子を見送って、生き物は散乱した家の片づけに取り掛かった。割れた瓶から溢れたものをいったん隅に追いやって、新しいガラス瓶をパントリーから取り出した。ガチャガチャと瓶を数個腕に乗せて、よっこらしょと机に乗せた生き物は、床…

【100日経っても幸せなヤツ】42日目

すっかり熱の下がったらしい生き物は、ベッドからゆっくり起き上がった。ぐーっと伸ばした体をゆっくりと丸めてストレッチすると、散らかり放題の床に足を下ろした。 割れたままになっているガラス瓶を丁寧に片付けながら、窓際で丸まっている猫の背中をひと…

【100日経っても幸せなヤツ】41日目

猫とドラゴンの奇妙な共同作業を見ながら、生き物は散らかってしまった家を呆然と眺めていた。まだ頭はぼうっとするが、幾分か怠さがマシになった生き物はゆっくりとベッドから起き上がろうとして、失敗した。生き物の胸の辺りに猫が乗り上がり、起きること…