じかんどろぼう

四十物茶々(あいものちゃちゃ)です。ゆっくりとSSを上げていきます。

【100日経っても幸せなヤツ】53日目

生き物は言葉を操ることができない。鳴き声を上げる事も殆どない。
遺憾の意で、ふすーっと鼻を鳴らし、ダムダムと地団駄を踏む時もあるが、基本的に穏やかに生きている。
そんな生き物も今日は朝から随分と不機嫌だった。
そう、今日は生き物の嫌いなお風呂の日なのである。
グルーミングができない生き物は定期的に風呂に入らないと臭いがこびり付いて大変なことになってしまう。
しかし、基本的に陸地の生き物なので、いくら暖かくてもお風呂は嫌いなのである。

生き物は、大変屈辱そうに鼻を鳴らす。

長い毛の一束一束にブラシを通して少しでも早く風呂から上がれる準備をする。今の間にとれる汚れは取っておくのだ。
ごろごろ転がりながら背中の毛や股の毛を梳かして準備万端になった生き物は、タオルを率いて家の外に用意したドラム缶にお湯と水を交互に入れた。
少し熱めのに湯加減が調整できたところで意を決して足先を付ける。
ざわわわと全身の毛が逆立つのを感じて、足を引っ込めるが、辺りを見回し仕方なく足を湯に付けた。
水面を揺らさないようにゆっくりゆっくり体を沈めていく。
程なくして肩まで沈んだ生き物はぐーっと腕を伸ばした。

じっくり湯の中に入ると毛穴から汚れが出て行く気がする。筋肉が緩んでいく気がする。
暫く目を瞑り、泡のようにきらめく光を瞼の裏で感じているとかさりと足音が聞こえた。
そちらの耳をそばだてると何やらゆっくり近づいてくるではないか。
生き物はカッと目を見開いて手元のタオルを投げつけた。なにやら生物に被さったらしくタオルの中で藻掻いている。
暫くそのもだもだした動きを観察していると顔を出したのは、野犬だった。
「わふっ!」と嬉しそうにタオルにじゃれ付いている。
生き物はにぎやかだなと思いながら湯に沈んだ。