じかんどろぼう

四十物茶々(あいものちゃちゃ)です。ゆっくりとSSを上げていきます。

2021-07-01から1ヶ月間の記事一覧

【100日経っても幸せなヤツ】14日目

君と出会って2週間が経った。生き物の生活は今日も変わらない。 昨日繋いだロープの両端を木の枝にかけて結び、板を間に嚙ませた。ぶらんぶらんと風に揺れるそれに乗れば、簡易なブランコの完成だ。 外には出たいと思うが、それは今すぐではないということ…

【100日経っても幸せなヤツ】13日目

生き物に兄弟はいない。家族もいない。しかし、生き物は孤独を感じたことはなかった。 谷の底に吹き抜ける風は日々柔らかく、池の水は澄んでいていつも喉を潤してくれる。谷の鉱石は光を拡散し、谷の底はいつも七色の光に包まれていた。 生き物が孤独を感じ…

【100日経っても幸せなヤツ】12日目

谷の底に湿気た風が吹き込んできたのは午後を過ぎた頃だった。そろそろ季節が変わるらしい。湿度を含んだ風が生き物の毛をうねらせる。谷の底は基本的に湿度も、温度も一定に保たれているが時々こうして外界の匂いが混ざる時がある。生き物はぶるぶると体を…

【100日経っても幸せなヤツ】11日目

昨日作った鳥のスープが二日目、美味しそうに炊き上がっていた。香辛料と鳥の出汁が出たスープは黄金色に輝いている。お玉で掬って生き物はじゅっとスープを吸い上げた。香ばしい黄色の味がする。 今日はこのスープと菜っ葉を使ってお昼ご飯にしよう。 小屋…

【100日経っても幸せなヤツ】10日目

朝起きたら知らない匂いが漂ってきた。寝床の扉をそっと開けると入り口には見たこともない鳥が息絶えている。ちらりとあたりを見回すと昨日の野犬がこちらをじっと見ている。 これは恩返しのつもりなのだろう。 耳をピコピコ動かして生き物は大きく手を振っ…

【100日経っても幸せなヤツ】9日目

今日も青い花は揺れている。 一輪挿しの水を取り替えながら、生き物は長い耳をぴこぴこと動かした。何かが動く音がする。水を取り替えた一輪挿しを定位置に置いて、生き物はゆっくりと寝床のドアを開けて外へと踏み出した。ぐるぐると喉を鳴らす声が聞こえる…

【100日経っても幸せなヤツ】8日目

生き物の長い耳は色々な音を拾うことができる。今日は谷の底に流れる風の音を聞いていた。でこぼことした地形が奏でる音楽は、行進曲のように軽快だ。今日は元気なステップをふっくらとした足が踏んでいる。 木材を輪切りにした丸い机には、一輪挿しが置かれ…

【100日経っても幸せなヤツ】7日目

君と生き物が出会って一週間が経った。生き物の生き方は相変わらず変わらない。朝日を浴びて起きて、夜のとばりが下りたら眠りにつく。 今日はもう昨日の飛竜は居なくなっていた。 昨日、飛竜が寝ころんだ草原は、重みに負けてくったりと横になっている。そ…

【100日経っても幸せなヤツ】6日目

今日はやけに毛がビビビッと逆立った。 不穏な空気が静かで穏やかな谷の底に流れる。ゆっくりと小屋のドアを開けると、ドシンドシンと我が物顔で、大きな翼が生え、尾の長い飛ぶ能力を持った竜が歩いていた。恵まれた環境である谷の底には、こうして時々不思…

【100日経っても幸せな奴】5日目

昨日の雨が嘘のように谷の底の空気は澄み、晴れ渡っていた。谷のあちこちには水たまりができ、谷の壁、壁に当たって屈折した光が七色に輝いている。 生き物はこの日が特に好きだった。 澄んだ空気、足元を撫でる草の青い匂い、屈折した七色の光、暖かく穏や…

【100日経っても幸せなヤツ】4日目

谷の底は今日は雨だった。ふわふわの毛並みは雨に濡れるとずっしりと重くなってしまう。 こんな日は不幸だろうか? 生き物はそうは思わなかった。雨は、恵みのものだ。そして音がいい。谷のあちこちに当たって雨は様々な音色に変わる。ああ、今は右のくぼみ…

【100日経っても幸せなヤツ】3日目

君が友達になってから3日目になった。君は生き物に名前を付けてくれただろうか? 生き物の生活は変わらない。 今日も柔らかい朝日を受けて起き、幸せだと感じた。藁で作ったふかふかのベッドは、生き物にとって最高の寝床だ。君のベッドは、もっと柔らかいの…

【100日経っても幸せなヤツ】2日目

その生き物が起きるのは、暖かな朝日が降り注ぐ時間。柔らかな毛並みを梳かしながら生き物は眠りから目を覚ます。生き物には名前がない。ウサギのようでありクマのようであるが、彼らと違って道具を使うことができる。手を使うということを知っている。誰に…

【100日経っても幸せなヤツ】1日目

そこは谷の底。光が差し込み、ふわふわとした暖かな空気が流れていた。 そこに一匹のウサギのようなクマのような生き物が生息していた。その生き物は人間を知らない。 友達も知らないが、毎日がとても幸せだということを知っていた。人が忘れてしまった小さ…