じかんどろぼう

四十物茶々(あいものちゃちゃ)です。ゆっくりとSSを上げていきます。

2021-10-01から1ヶ月間の記事一覧

【100日経っても幸せなヤツ】79日目

結果は散々だった。 だいたい、大きすぎる。強いという次元を超えている。掴んでいた棒切れは一瞬で砂の山に放り投げられていた。「なんなんだこの規格外の体は!」と生き物は自分の腕に絡みつくモルタルをぺしぺしと叩いた。 「もう一度聞く、下等生物、ど…

【100日経っても幸せなヤツ】78日目

化け物を目視した生き物は全速力で風の流れる方へと走り出した。その背後から「待て」と声が聞こえる。このように産み落とされて初めて理解できる言語が聞こえて、思わず生き物は足を止める。その声は背後の化け物から発せられているらしい。 「貴様、どこか…

【100日経っても幸せなヤツ】77日目

目が覚めた生き物の目の前には黒い岩石が転がっていた。辺りを見渡すと先ほどの神秘的な鍾乳洞とは異なりごつごつとした岩が辺りから飛び出していた。 どうやらあの砂場の下は洞窟へと繋がっていたらしい。 砂の力で地面に叩きつけられる衝撃が和らいだよう…

【100日経っても幸せなヤツ】76日目

鍾乳洞を奥へ奥へと進んでいくと、一面砂原の部屋が現れた。さらさらとした砂は掴みどころがなく、生き物の手を水のように滑り落ちていく。随分と乾燥しているようだ。ゆっくりとそこに足を踏み入れる。生き物の肩に乗った猫は「にゃう」と小さく鳴いた。耳…

【100日経っても幸せなヤツ】75日目

永久(とこしえ)の雨の森を抜けて、生き物一行は鍾乳洞に入っていった。白く美しい水が作り出した芸術を撫でていると、目の前から大量の蝙蝠が飛んできて視界を塞ぐ。わたわたと蝙蝠を払いのける生き物の横で「キシャァー!」と猫が一鳴きしたら蝙蝠は向こ…

【100日経っても幸せなヤツ】74日目

化け物を何とか巻いて、生き物一行は湿った森を突き進んでいた。常時雨の降るじっとりとした森は、木々が腐り、外皮がぬめぬめと溶けている。この雨は酸性雨ではないか?と顔をしかめた生き物は持ってきたリュックから、リトマス試験紙を取り出す。雨に濡れ…

【100日経っても幸せなヤツ】73日目

再びドラゴンの背に乗り、地上付近を飛行する。燃え盛る灼熱の森を抜けた後は、見渡す限りの砂漠が視界を覆った。眼の中が、耳の中が砂が入ってゴロゴロする。ぱたんと耳を閉ざして生き物は広がる砂漠に何かいないか目を凝らしていた。視界の隅をごそごそな…

【100日経っても幸せなヤツ】72日目

ゆっくりとドラゴンの背から降り立つと足裏が燃えるように熱く、生き物は顔を歪めた。辺り一面灼熱に包まれた地獄絵図。谷の美しさからは全く想像ができない程、地上は、荒れ果てていた。枯れ木の一本も経っていない。猫はというと、だから言ったのにという…

【100日経っても幸せなヤツ】71日目

その日、生き物は寝不足の目を擦りながら猫に促されてドアを開けた。沢山の荷物を抱えて、リュックをパンパンにした生き物と猫を背に乗せて、ドラゴンはいつもより体が重そうに飛び上がった。まっすぐ上がる能力はないらしく、ゆっくりと斜め上に上昇してい…

【100日経っても幸せなヤツ】70日目

その日、朝から生き物は家の荷物を片付けていた。谷の底から出るという生き物の長年の夢がやっと叶う。呑気に水を舐めている猫をひと撫でして、生き物はリュックに必要なものをボンボン大雑把に詰め込んだ。応急薬、救急セット、寒かった時用のスカーフに、…

【100日経っても幸せなヤツ】69日目

生き物が鼻息荒く説明することを半分も理解しているのかいないのか、猫は眠そうに頷きながら、子ドラゴンの横で丸くなった。随分と大きくなった子ドラゴンを見て生き物は暖かい目で背中を撫でてやる。嬉しそうに笑う子ドラゴンは、生き物の言いたいことを理…

【100日経っても幸せなヤツ】68日目

翼がないならば作ってしまえばいいのだ。この本を書いた人間たちもそれを可能にしていた。自分にもできる筈だ。生き物は木材を切り、翼の形をとらせると、背負えるように加工して、上に布を張った。大きなタコの原理だ。出来上がった大きなタコを使って、走…

【100日経っても幸せなヤツ】67日目

その日生き物は、ここ数日の睡眠不足を取り戻すように惰眠を貪り、目が覚めた時には夕方だった。白夜のようにあまり明るさが分からない谷の底は、今日もキラキラと輝いている。生き物はじっと空を見上げる。細い細いスキマの奥、空を大きな鳥が飛んでいるの…

【100日経っても幸せなヤツ】66日目

泉の畔にバリケードを作った後、生き物は、手持ちの薬の類を全てチェックすることに決めた。運良くドラゴンは救えたが、犬は見殺しにしてしまった罪悪感でここ数日ろくに眠れていない。普段は一日の大半を寝て過ごす生き物にとって、ほぼ徹夜に近いこの状況…

【100日経っても幸せなヤツ】65日目

その日から生き物は例の泉の周りの整備に入った。他の動物が泉に近付かないようにバリケードを張る作業を淡々とこなす生き物を見て、猫は「にゃう」と声をかけた。いつになく真剣な顔で泉を封鎖する生き物を見てドラゴンと一緒に首を傾げた。 この泉の犠牲者…

【100日経っても幸せなヤツ】64日目

今日、生き物は水の調査をしていた。森の生き物たちを癒していると思っていた水は本当に癒しの力があったのか。生き物にとっては、確かに癒しの効果が実証されているが、他は、直接この目で確かめたわけではない。木陰に隠れて、水場に近寄る生き物を一匹一…

【100日経っても幸せなヤツ】63日目

その日生き物は、朝から庭を掃除していた。犬が駆け回って居たため踏み荒らされた畑を直している。瞳を閉じると、犬が元気に庭を駆け回っている。それだけで心がほっと温かくなるのを感じた。ゆっくり腰を落として犬のお墓を掃除していると背中に何かが乗っ…

【100日経っても幸せなヤツ】62日目

今日の生き物は朝から寝床を出ることがなく、日が完全に傾いてしまっていた。眠っているというよりも、拗ねていると言った方が正しい。自分がペットロスになるとは思わなかった生き物は、ぐるぐるぐるぐる胸の中で考えていた。目を閉じると犬の元気な笑顔が…

【100日経っても幸せなヤツ】61日目

今日、生き物は起きるのが遅かった。昼頃に目を覚ました生き物は、隣で冷たく固くなった犬を抱きしめていた。抱き潰してしまったのか?と思ったがそうではない。安らかな顔をして犬は冷たくなっていた。 何故? 生き物の頭が疑問と不安で埋め尽くされる。し…

【100日経っても幸せなヤツ】60日目

前日から酷い状態の犬を半ば無理やり犬小屋から引きずり出して、生き物は自分の寝床の上に犬を置いた。明るい所で見ると犬の顔はすっかりやつれて居るように見える。理由が思いつかず、何をしたらいいのかも分からず、生き物は狼狽えながら水を差しだした。…

【100日経っても幸せなヤツ】59日目

その日は朝から犬の機嫌が悪かった。小屋を出て犬小屋を覗くと小さく丸くなった犬が体を震わせていた。生き物は何とか腕を伸ばして犬小屋の隅っこに丸まる犬の背中を撫でてやる。生き物の大きな体では腕を入れるのが精一杯だ。震える体を不安を覚える。病気…