じかんどろぼう

四十物茶々(あいものちゃちゃ)です。ゆっくりとSSを上げていきます。

2021-09-01から1ヶ月間の記事一覧

【100日経っても幸せなヤツ】58日目

生き物と犬の奇妙な生活が始まって暫く経った。 今日も生き物は、犬のふかふかした腹に顔を埋めて呼吸している。所謂、犬吸いである。犬は遊んでもらえるのか?と暫くバタバタしていたが、一向に動かない生き物を見て、したかなさそうに尻尾を下げた。釣られ…

【100日経っても幸せなヤツ】57日目

生き物は茫然と目の前の光景を見ていた。ドラム缶では狭いだろうと思って広めの金型にお湯を入れた所、犬は準備も待たずに嬉しそうに湯に飛び込み泳ぎ始めた。ばちゃばちゃと前足を器用に動かして、前進する犬を見て生き物のに闘志が宿る。犬に泳ぎで負けた…

【100日経っても幸せなヤツ】56日目

今日は生き物と犬は森を探索していた。長い棒で背の高い草をかき分けながら進む生き物を先頭にして列をなして歩くその姿は、ブレーメンの音楽隊のようだ。尻尾を振ってついてくる犬に生き物は楽しそうだなと口角を上げた。程なくして沢山の野イチゴが自生し…

【100日経っても幸せなヤツ】55日目

生き物の生活に突然野犬が混ざってからちょっとの時間が経った。生き物は朝食の残りを野犬に与え、小屋の外に小さな犬小屋を建てた。家族がいるかもしれない。いつ出て行ってもいいと伝えたいが、その方法が分からない。ただ、野犬が幸せそうに生き物の尻尾…

【100日経っても幸せなヤツ】54日目

生き物は胸の圧迫を感じた。うっすら目を開けると昨日の野犬が、胸の上に乗って尻尾を振っている。どこから入り込んできたのかと辺りを見回すと、散らかった部屋が視界に入って溜息をついた。生き物の胸の上で足踏みする野犬を追い払いながら起き上がると、…

【100日経っても幸せなヤツ】53日目

生き物は言葉を操ることができない。鳴き声を上げる事も殆どない。遺憾の意で、ふすーっと鼻を鳴らし、ダムダムと地団駄を踏む時もあるが、基本的に穏やかに生きている。そんな生き物も今日は朝から随分と不機嫌だった。そう、今日は生き物の嫌いなお風呂の…

【100日経っても幸せなヤツ】52日目

生き物は生物にしては珍しく二足歩行だ。足は、体のバランスから考えると随分と大きい。大きな体を支えるためだろうか。ぺたんぺたんと歩く様は陸地を歩くアヒルやペンギンの様でもある。手もふかふかで大きく、しかし、手先が器用でいろいろなものを使うこ…

【100日経っても幸せなヤツ】51日目

生き物は雑食だ。小麦も食べるし、肉も魚も野菜も食べる。木の実、果実も好きだ。今日、生き物はアケビを収穫した。アケビは不思議な甘みがある。生き物はこの果物の果肉が好きだ。口の周りの毛をべたべたに汚しながら食べるのが好きだ。さっぱりとした水色…

【100日経っても幸せなヤツ】50日目

生き物の生活を観測し始めて、50日が経過した。 今日も生き物の生活は変わらない。好きな時間に起きて、文字が読めているのかは分からないが好きな本を読んで、好きなものを食べて、好きなことをする。柔らかい草の上に転がったり、美味しい水を飲んだり、鉱…

【100日経っても幸せなヤツ】49日目

小屋の中には、布の切れ端が沢山積み上がっている。どうやら満足いくドレスが作れなかったらしい生き物は、ぷいと不貞腐れて布団に横になっていた。 人形たちの綺麗なガラスの瞳は、そんな生き物を慈愛の瞳で見詰めている。 人間の世界なら、きっと綺麗なド…

【100日経っても幸せなヤツ】48日目

昨日拾った人形たちを風呂に入れて窓際で乾燥させた。埃の落ちたブロンドヘアは光を受けてキラキラ輝いている。生き物はその細い髪の毛を指先でさらさらと撫でた。指から零れる髪の束が、空気を纏ってゆったりと重力に伴って落ちていく。とても綺麗だ。生き…

【100日経っても幸せなヤツ】47日目

その日、生き物は谷の底のゴミ捨て場に人形を二体見つけた。青いガラス玉が入った綺麗な瞳は谷の底の光を反射して、きらきらと輝く宝石の様だ。中に枯れない花びらが埋め込まれている。二体の人形の埃を払い、綺麗なブロンドの髪を梳かしてやる。人形には詳…

【100日経っても幸せなヤツ】46日目

ガサガサと足元の長い草を蹴り上げながら、生き物はずんずんと谷の底を歩いて行く。長い毛にくっ付き虫を沢山つけながら辿り着いたのは、いつもの湖畔とは違う、もう少し薄暗い沼地だった。沼地に潜む動物たちがじっと生き物を見ているのを感じながら、ゆっ…

【100日経っても幸せなヤツ】45日目

生き物の生活に暦はない。もちろん予定もない。明日何をしようかと考えることはあるが、実行するかどうかは明日の自分次第だ。タスクに追われることのない生き物は自由だ。 人間はたくさんのことに追われている。それは仕事だったり、家庭のことだったり、自…

【100日経っても幸せなヤツ】44日目

一日で部屋を片付けた生き物は、ぐったりとベッドに転がっていた。体が痛い。長時間丸まった態勢をとっていたせいだろう。背中が悲鳴を上げている。無理をし過ぎたなとぼんやり天井を眺めていると、窓から差し込む光が天井を彩っていることに気づいた。七色…

【100日経っても幸せなヤツ】43日目

猫と子ドラゴンの疑似親子を見送って、生き物は散乱した家の片づけに取り掛かった。割れた瓶から溢れたものをいったん隅に追いやって、新しいガラス瓶をパントリーから取り出した。ガチャガチャと瓶を数個腕に乗せて、よっこらしょと机に乗せた生き物は、床…

【100日経っても幸せなヤツ】42日目

すっかり熱の下がったらしい生き物は、ベッドからゆっくり起き上がった。ぐーっと伸ばした体をゆっくりと丸めてストレッチすると、散らかり放題の床に足を下ろした。 割れたままになっているガラス瓶を丁寧に片付けながら、窓際で丸まっている猫の背中をひと…

【100日経っても幸せなヤツ】41日目

猫とドラゴンの奇妙な共同作業を見ながら、生き物は散らかってしまった家を呆然と眺めていた。まだ頭はぼうっとするが、幾分か怠さがマシになった生き物はゆっくりとベッドから起き上がろうとして、失敗した。生き物の胸の辺りに猫が乗り上がり、起きること…

【100日経っても幸せなヤツ】40日目

その日、生き物は布団から起き上がれなかった。体の中に熱せられた鉄が流し込まれたように熱く、ずっしりと重く、自由が利かない。視野がぼんやりとしている。滲んだ視界で捉えられるのは、見慣れたベッド周りだけだ。 ああ、寂しいなと生き物は思った。 ず…

【100日経っても幸せなヤツ】39日目

今日の生き物は地面に何かを書き込んでいた。固く尖った石で地面を削り、様々な絵を描いている。ごりごりと地面と石をぶつけ合わせて書いているのは何なのだろうか。絵の様でもあり、文字の様でもある。生き物にしかわからない言語なのだろうか。 ひとしきり…

【100日経っても幸せなヤツ】38日目

今日の生き物は午前中を寝て過ごした。ゴロゴロと呑気にベッドでまどろんでいる。 窓から差し込む光は柔らかく、ほわほわとした空気が生き物を淡く照らしている。ふわぁと呑気に大きなあくびを零して、生き物はまたごろりと転がった。ぐーっと両手と両足を伸…

【100日経っても幸せなヤツ】37日目

今日は、藁のベッドがへたってきたため、生き物は、鎌を片手にザクザクと雑草を刈ることにした。しっかり乾燥させればベッドの芯になってくれる筈だ。キラキラと輝く光の泡を抜けて少し薄暗い谷の隅に来て、伸び放題の雑草に手を伸ばす。鈍い銀色の刃物を雑…