じかんどろぼう

四十物茶々(あいものちゃちゃ)です。ゆっくりとSSを上げていきます。

【100日経っても幸せなヤツ】21日目

昨日釣った魚ははらわたを取って、塩をまぶし、紙に巻いて、冷暗所で休ませていた。
紙をゆっくりと剥がすと随分と水分が出た魚がしっとりと横になっている。
艶やかなその肌を包丁の背で撫でて、生き物はゆっくりとその身に刃物を滑らせた。
向こうが透けるほど薄く切られたそれを白くて丸い皿に並べていく。
生き物は日本文化を知らないが、薄造りの存在は知っていた。
そして、塩漬けの存在も長く生きていく過程で知恵として身に着けた。

常に過ごしやすい気候の谷の底であっても冷暗所の存在は欠かせない。
それは、食物を傷ませないためだったり、休めるためだったりするが、総じて言えるのは今、食べられない物、食べきれない物をまとめて貯蔵しておくという事実だ。
生き物は、食いしばれなかったあくびを大きく一つ零すと、のっそりと出来上がった薄造りを食卓に置いた。
生き物には食卓を囲む仲間も家族も居ないが、一凛の青い花が食卓の机の上で揺れているので満足だった。
毛むくじゃらの手を伸ばして、器用に箸を使い、薄造りを口に運ぶ。
塩だけの味付けだが、満足のいく出来だったようで、プルプルと耳が震えていた。